肥大型心筋症は何らかの原因で心臓の筋肉が肥厚する病気で、猫ちゃんでの発生は比較的多く、若い子でみられることもあります。品種ではアメリカンショートヘア、メインクーンなどで多いとされますが、当院では雑種の猫ちゃんでも多くの発生が認められています。肥大型心筋症の発症年齢は加齢になるにつれて高くなり、1歳未満で約4%、3〜9歳で約19%、9歳以上で約30%と報告されています。肥大型心筋症は筋肉の肥厚により心臓が広がりにくくなり(拡張障害)、うっ血性心不全(左心不全、肺水腫、胸水)を起こすことがあります。また、肥大した筋肉や弁の動きによって大動脈への通り道が狭くなり、全身に送る血液量や血圧の変化ももたらします。血流の流れが悪くなると、うっ血で拡張した左心房内に血液が滞ることで血栓が形成され、後ろ足などの血管が詰まる血栓塞栓症を併発することがあります。
肥大型心筋症が進行していくと、このように恐ろしい病態を起こすこの病気ですが、目立った症状(無症状)がないまま進行することも多く、症状が出る前に気づきにくいことが特徴です。そして、症状が何もなく突然死を起こすこともあります。聴診でも心雑音を聴取することができないにも関わらず、この病気を持っていることもあるため、定期的に病院にかかって聴診をしている子でも油断ができません。
※ 症状がはっきりしないことがあります。
聴診
心雑音が聴取される場合とされない場合があります。肥大型心筋症にかかっても心雑音が聞こえないケースもあるため、聴診で見抜くことはできません。
胸部レントゲン検査
肥大型心筋症はレントゲン検査で心臓の形が変わったり、大きくなった心臓を確認することができます。しかし、肥大型心筋症の約20%でレントゲン検査に異常が認められないことが報告されています。
心臓以外に肺に異常(肺水腫、胸水など)がないかを確認することができます。
心臓は大きくなっており、肺も一部で白くなっています。これは肥大型心筋症により肺水腫を併発しています。
心臓超音波検査
超音波検査は心臓の内部を詳細に確認できます。肥大型心筋症は筋肉の厚さを確認することが診断には最も重要です。他に弁の動きの評価、うっ血所見の有無や血栓の元となる「もやもやエコー」の確認、収縮力など様々な部分の評価を行います。
重度に心筋が肥大しており、心筋の肥大によって流出路狭窄も併発しています。
肥大型心筋症の診断に心筋壁を肥厚させる以下の基礎疾患を除外する必要があります。血圧測定に加えて血液検査、胸部レントゲン検査を行います。
- 高血圧
- 甲状腺機能亢進症
- 大動脈弁狭窄
- 脱水
- 貧血
- その他の全身疾患の確認
上記の除外ができて、心臓超音波検査で左心室自由壁および左心室中隔壁の厚さが6mmを超えていると肥大型心筋症と臨床的に診断します。
上記の心筋の肥大を引き起こす基礎疾患がみつかった場合は、基礎疾患の治療を行います。基礎疾患の治療を行うことで心臓の異常所見は改善することがあります。基礎疾患がない場合には、以下の治療方針を行います。
ステージB1〜B2、症状がなく左心房の拡大がないもしくは軽度左心房拡大場合
早期治療により生存期間が延長するという明確な根拠がないため、治療は推奨されていません(2021年12月)。このような場合には6~12ヶ月毎に定期検査を行い、治療を開始するタイミングを確認します。
■ 閉塞性肥大型心筋症
早期治療により生存期間は変わらないことが報告されていますが、少ないですが病態が急激に悪化するケースがあります。
ステージB1〜B2、症状がなく中程度〜重度左心房拡大のみられる場合
血管拡張薬、利尿薬、強心薬により心不全の発生を予防することが重要です。重度な左心房拡大のみられる場合(レントゲン検査や超音波検査)には、血栓症の発生リスクが高くなります。上記の治療に加えて抗血小板凝集剤を開始することが推奨されています。
- 利尿剤:尿を排出させることで全身の血液量を減らし、心臓の負担を減らします。
- βブロッカー:心臓の過剰な興奮を抑制し、心臓が働きすぎて疲れないようします。
- 降圧剤:血管を拡張させて血圧を下げることによって、血液を循環しやくします。
- 強心薬:血管拡張作用と強心作用を併せ持ち、心不全症状の軽減に有効です。
- 抗血小板凝集剤:血栓の形成を抑制することで、血栓症による重篤な合併症を予防します。
ステージC(現在および過去にうっ血性心不全および血栓症を発症)
うっ血性心不全により肺水腫、胸水、血栓症を発症している可能性があるため、集中治療を行うために入院治療が必要です
ステージD(難治性のうっ血性心不全)
ステージCの段階から治療に抵抗性を示す状態で、利尿剤を高容量の投与を行わないと容体を維持できない状態です。