腎泌尿器科診療

獣医師 岩佐 直樹
担当:岩佐 直樹いわさ なおき(院長、獣医師、獣医学博士)

岐阜大学で腎臓病に関する研究で博士号を取得しました。
飼い主様にわかりやすく丁寧に説明できることを心がけていきます。
腎泌尿器の分野はわんちゃん、猫ちゃんにとって一生に関わる病気です。
もし腎泌尿器に関わる不安や疑問があればご相談ください

岩佐院長プロフィール

気になることがあればご相談を

腎泌尿器の症状は主に飲水や尿の異常などです。もしこのような症状に心当たりがあればお気軽にお問い合わせください。また、後述の相談内容がございましたら、腎泌尿器科に詳しい獣医師が担当し診察させていただきます。最近、「他院にて腎臓の数値が高いと指摘された」といったご相談を多く頂いています。治療の有無、治療内容の確認、新たな治療の提案など腎臓病の研究で博士号を取得した専門獣医師が担当し診察させていただきます。

主な相談内容

  • 最近、飲水と尿の回数と量が多い
  • おしっこの出が悪い、キレが悪い
  • 血尿がある
  • 腎臓病なのか診てもらいたい
  • 腎臓病の症状が気になる
  • 他院で腎臓の数値が高いと指摘された
  • 他院で慢性腎臓病、腎不全、腎機能障害と診断された
  • 腎臓病の治療をしているが症状や状態が安定しない
  • 腎臓病の治療内容を相談したい
  • 心臓病に伴う腎臓の数値の上昇
  • 前立腺が大きいと言われた
  • 前立腺癌と診断された
  • 結石と診断された
  • 排便しにくい
  • 会陰尿道ろう形成術の相談をしたい
  • 会陰ヘルニアの手術の相談をしたい
当院での主な治療

急性腎障害、慢性腎臓病、膀胱結石、尿管結石、尿道結石、前立腺腫大、会陰ヘルニアなど

腎臓科

腎臓病はわんちゃん、猫ちゃんにとって三大死因の一つであり、慢性疾患の中でわんちゃんは2番目、猫ちゃんは1番目に多いと言われています。腎臓病は大きく急性腎障害と慢性腎臓病と分かれます。急性腎障害は尿路閉塞や植物や薬物による中毒などが原因でおこります。慢性腎臓病は徐々に腎機能の低下がおこっていく病態です。慢性腎臓病の症状は腎機能が約70%を失われないと、症状がでてきません。そのため早期発見が重要です。後述の症状があれば、動物病院への受診をお勧めします。また、心臓病を患っている場合は腎機能をモニタリングすることは重要です。

当院では腎数値上昇の原因を追求し、診断し、その原因に合う治療または無治療経過を行います。腎臓病を疑う症状および腎数値に異常が認められた場合は血液検査(腎臓パネルおよび腎臓バイオマーカー)、尿検査(尿比重、尿蛋白の検出)、血圧測定、腹部エコー検査、レントゲン検査を総合的に行い、診断して治療法を検討します。腎臓数値の上昇の指摘や腎臓病の気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。腎臓病は早期発見、早期治療が重要です。当院ではワンちゃんの慢性腎臓病の早期発見として、健診診断でシスタチンCを使用しています(7歳以上20kg以下のわんちゃんの血液検査の健診では必ず測定します)。当院でのシスタチン Cの有用性に関して、世界に先駆けて海外の論文を元に発表いたしました。

⽝の腎機能マーカー:⾎清シスタチンCとは?

⽝の⾎清シスタチンCの有⽤性と臨床応⽤について

当院での腎臓病の治療および管理

慢性腎臓病は慢性疾患であり、診断された時点でわんちゃん、猫ちゃんの一生涯の治療になります。長い管理および治療になりますが、その治療が合っているのか、管理が適切なのかを適宜評価することが非常に重要です。もし間違った治療や管理をしていると、腎臓病は一気に悪化する可能性があります。腎臓病が悪化する要因は主に尿結石、高血圧、高リン血症、尿タンパクの漏出などです。この腎臓病の悪化要因を管理することで腎臓病の進行の遅延をすることが可能です。逆に、腎臓病の悪化要因が管理できていないと腎臓病の進行は早くなります。したがって、当院では腎臓病の症例に対して以下の項目を徹底して管理しています。


尿結石

尿結石は形成される位置によりますが、尿の生成から排出の妨げになっているとすれば、腎臓病を悪化させる要因になります。そのため、定期的な尿検査および画像検査が必要です。


高血圧

腎臓病に罹患していると腎性高血圧を合併することがあります。高血圧は腎臓への血流を増加させて腎臓に負担をかけるだけでなく、脳、心臓、眼にも影響を与えます。特に眼底出血は失明する可能性があります。よって、定期的な血圧測定が必要であり、高血圧が検出された場合は、降圧剤の服用が検討されます。


高リン血症

高リン血症は様々な機序によりカルシウム濃度を増加させて、軟部組織に石灰沈着します。腎臓も軟部組織であるため、腎臓が硬化していく可能性があります。よって、定期的な血中リン濃度の測定が必要であり、もし高リン血症が検出されれば活性炭およびリン吸着剤の服用が推奨されます。


尿タンパクの漏出

尿中のタンパク漏出は腎臓の糸球体を損傷させ、腎臓病を悪化させる可能性があります。尿タンパクの漏出には高血圧が関与している可能性もあります。そのため、定期的な尿検査および血圧測定が必要です。


以上より、腎臓病と診断された後も上記の悪化要因を検出するために血液検査以外に定期的な尿検査、血圧測定、画像検査し、コントロールしていきます。

最後に、上記の腎臓病の悪化要因をコントロールすることも重要ですが、腎臓病の長い治療および管理の中で一番重要なことは脱水させないこと、体重を維持することが非常に重要だと考えています。

急性腎障害の症状

  • 急に元気食欲がなくなる
  • ぐったりする
  • 意識の低下
  • 脱水
  • 嘔吐
  • おしっこが急に出なくなる

慢性腎臓病の症状

  • お水を多く飲み、おしっこの量が多い
  • 元気食欲の低下
  • 脱水症状
    (口の渇き、鼻が乾いている、皮膚をつねった時に皮膚が硬い)
  • 体重減少
  • 嘔吐
  • 貧血
    (舌の色が白くなる)
  •   重症の場合は尿毒症(発作、神経症状)

主な腎臓が原因の病気

  • 急性腎障害
    (尿路閉塞、腎毒性のある異物の摂食:特にユリ科の植物)
  • 慢性腎臓病
  • タンパク漏出性腎症
  • ファンコーニ症候群
  • 腎リンパ腫
    (腎臓のリンパ腫:腎臓病との鑑別が重要です)
  • など

急性腎障害

急性腎障害は、急激に、短期間(数時間または数日)で腎機能が低下した状態です。腎臓で尿を作る働きが停止してしまうため、無尿や乏尿とよばれる状態に陥ります。急性腎障害は、急激に重篤な状態(嘔吐、下痢、虚脱、痙攣など)な症状がでます。早急に原因を探り、積極的な治療を行えば、腎機能の回復を望める場合もあります。しかし、最悪発症して数日で死亡することもありますし、回復してもそのまま慢性腎不全に移行する場合も少なくありません。よって急性腎障害の原因を作る機会を減らすことが重要です。

原因

腎臓に十分な血液が流れない
重度の脱水、出血、血圧低下など

腎臓組織そのものが障害を受ける
毒性物質の誤食誤飲よる腎臓への影響、感染症など
特に飼い主様の常備薬や、ユリ科植物の誤食(ユリを活けた水でも中毒作用があります)

尿の流れが閉塞する、尿路閉塞
結石による尿管閉塞および尿道閉塞、腫瘍圧迫による尿管閉塞および尿道閉塞により尿路が閉塞してしまう。すぐに解除しないと危険です。

慢性腎臓病

腎臓は血液を濾過して体に必要な水分や電解質、酸塩基のバランスを調整し、不要な老廃物をおしっことして排泄する役割をしています。もし、腎臓の機能が低下した場合、体に必要な水分を残せないため脱水し、老廃物が体に蓄積します。

症状はお水をよく飲みおしっこを多くする、嘔吐、脱水、元気食欲の低下などです。また、腎臓は血圧の調整や赤血球の産生にも関係しており、腎臓が障害を受けると高血圧や貧血といった症状が起きることもあります。これらの症状は腎機能が約70%を失われないと、症状がでてきません。そのため早期発見が重要です。早期発見には血液検査、尿検査、血圧検査、画像検査が重要です。

猫ちゃんはお年をとるにつれ徐々に腎障害が進行しやすく(2021年12月の時点で原因不明)、高齢の場合は血液検査のモニタリングが重要です。また、わんちゃんの慢性腎臓病の発症率は猫ちゃんに比べると少ないものの、猫ちゃんの慢性腎臓病に比べて進行が早いのが特徴です。このように慢性腎臓病の進行に差が出るのは、わんちゃんは腎臓の糸球体と呼ばれているところが悪くなり、猫ちゃんは腎臓の尿細管が悪くなる傾向にあるからです。わんちゃん、猫ちゃんで腎臓の悪くなる部位が異なるので、治療が異なるケースが出てきます。両者に言えることは何より早期の治療介入と適切な治療が重要です。

超音波検査における腎臓の観察

多発性嚢胞腎 腎臓内に多数の嚢胞の袋が見られます。

多発性嚢胞腎 腎臓内に多数の嚢胞の袋が見られます。

慢性化した腎臓病の症例で、重度に腎臓が萎縮しています。皮質と髄質の境界が不明瞭、皮質の高エコー源性が認められます。

慢性化した腎臓病の症例で、重度に腎臓が萎縮しています。皮質と髄質の境界が不明瞭、皮質の高エコー源性が認められます。

シスタチン C

わんちゃんの腎臓病の早期発見として、シスタチン Cという検査項目があります。当院獣医師の岩佐はシスタチン Cの研究を行なっており、これまでシスタチン Cが腎臓病の早期発見に有用であることを論文で証明してきました。当院の健診では7歳以上20kg以下を対象に必ずシスタチン Cを測定しています。しかし、適切な診断や治療には総合的な判断が必要となる為、尿検査、血圧検査、画像検査を行います。

⽝の腎機能マーカー:⾎清シスタチンCとは?

⽝の⾎清シスタチンCの有⽤性と臨床応⽤について

腎臓病は下記のように国際的な指標としてIRIS(International Renal Interest Society)分類という重症度が分類されています。指標の1つである血清クレアチニンは筋肉量に依存するため、あくまで目安となります。
血清クレアチニン濃度の値は血液検査で測定可能です。
IRISステージ4は腎機能が約10%以下になっており、とても危険な状態です。

IRIS分類
ステージレベル 1 2 3 4
血清クレアチニン濃度(猫) < 1.6 1.6 〜 2.8 2.9 〜 5.0 > 5.0
血清クレアチニン濃度(犬) < 1.4 1.4 〜 2.8 2.9 〜 5.0 > 5.0
残存する腎機能(%) > 33% 33 〜 25% 25 〜 10% < 10%

原因の治療が可能なものであれば、まずはその治療を行います(急性腎障害のような尿路閉塞がある場合には取り除きます)。原因の治療が困難、または原因を取り除いたものの腎障害が残る場合には、慢性腎臓病として治療を行っていきます。

上記のIRISのステージ分類や病態に応じて、推奨される治療は異なります。
具体的な治療の例としては下記のようなものがあり、それぞれを組み合わせて行っていきます。

  • 食事療法:リンや蛋白質、ナトリウムなどを制限した腎臓に負担のかかる成分除いた腎臓病の子用の食事をお勧めしています。また、療法食が難しい場合は手作り食を提案させて頂いています。
  • 水分補給:病状やステージに合わせて、入院での静脈点滴や、通院または自宅での定期的な皮下補液を行います。
  • 内服薬:降圧剤、吸着剤、活性炭を投与することがあります。ステージによっては投与を控えたほうが良い薬もあるため病態の評価は重要です。
  • その他:貧血がある場合には造血剤、嘔吐など消化器症状がある場合には制吐剤などを症状に合わせて対症療法を行なっていきます。

腎臓は一度失った機能を取り戻すことは困難なため、進行を極力遅らせ現在の腎臓の機能を維持し、治療でコントロールすることが目標です。腎臓病を長期で管理する上で重要なのが体重を減らさないこと、脱水させないことが重要です。

慢性腎臓病の治療は長期に渡ることも多く、飼主様方にも協力をお願いすることが多くなります。長い経過において、自宅でのおしっこの量や食欲の変化など本人の様子は非常に重要な情報となるため、上記のような症状が気になる方、症状はないけれど早期発見や健康診断を考えている方も、気になることがあればまずはご相談下さい。腎数値がなぜか高い?、シスタチンCの値が高い?なども気軽にご相談ください。

セカンドオピニオンのご相談も受け付けています。診断、治療の選択肢など可能な限りご提案させていただきます。その際はできる限り過去のデータをご持参いただくと、より適切なご提案が可能となります。救急の場合を除き、必ずお電話でご予約の上受診してください。また、近隣病院様の紹介の場合は紹介元の先生と相談して、診断および治療を協力して行なっていきます。

⽝の腎機能マーカー:⾎清シスタチンCとは?

⽝の⾎清シスタチンCの有⽤性と臨床応⽤について

泌尿器科

泌尿器に関わる症状

  • おしっこの回数と量が多い
  • おしっこがでない、トイレにいくがおしっこがでていない
  • 陰部をよくなめる
  • 血尿
  • 元気がない
  • 嘔吐など
  • ※中には緊急性が高い疾患もありますので、お早めにご相談ください。

泌尿器科の主な病気

  • 尿結石(腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石)
  • 膀胱炎
  • 前立腺疾患(前立腺肥大、前立腺炎、前立腺膿瘍、前立腺癌など)
  • 腫瘍関連(腎臓腫瘍、膀胱腫瘍、尿道腫瘍など)
  • 尿結石

尿結石は膀胱内にあることで膀胱炎が起こり血尿を引き起こします。尿管および尿道に結石が詰まると尿が出なくなります。閉塞が長期化すると、体に老廃物が蓄積して、最悪死に至ります。また、尿路閉塞を解除したとしても、閉塞により腎臓に負担がかかり、慢性腎臓病に移行しているケースがあります。猫ちゃんの場合、高齢になれば慢性腎臓病になりやすいと言われています。しかし、飼い主さんが気づかない小さな尿路閉塞を繰り返すと、徐々に腎臓に障害を受けていき、慢性腎臓病へ移行するリスクが高まります。尿結石は閉塞解除および結石摘出術による治療も重要ですが、治療後の食事療法や腎機能の状態を把握することも重要です。しかし、早期発見が重要なので泌尿器の症状がある場合はすぐに病院に受診することをお勧めします。

多発性嚢胞腎 腎臓内に多数の嚢胞の袋が見られます。

結石が尿道に詰まった例です。白矢印は尿道に結石が詰まった部分です。
この子の症状は排尿困難(2-3日尿が出ていない)でした。

多発性嚢胞腎 腎臓内に多数の嚢胞の袋が見られます。

尿道内の結石を膀胱内に戻しました。この後、膀胱結石摘出術により結石を除去します。取り出した結石は結石分析を行い、結石の種類を判定します。

膀胱炎

膀胱はおしっこを一時的にためておくための臓器です。その膀胱になんらかの原因で炎症が生じた状態を膀胱炎といいます。膀胱は膨らんだりしぼんだりすることで、尿を貯めたり排尿することができますが、膀胱壁に炎症が生じると尿を貯めることができず、頻尿や血尿などの症状がでます。

膀胱炎の原因は主に3つです。

  • 細菌性膀胱炎:細菌感染が原因で細菌が外陰部から尿道を伝って膀胱に感染することによって起こります。
  • 結石が原因による膀胱炎:食生活などで尿の性状や尿に溶け込んだ成分に変化が生じ、尿結石が形成されます。膀胱にできた尿結石が膀胱の粘膜を傷つけるため膀胱炎が生じ、血尿などの症状を引き起こします。膀胱結石は時に尿道に詰まることがあり、尿路閉塞の原因になります。
  • 特発性膀胱炎:原因がはっきりわからない膀胱炎です。特発性とは原因がわからず、突然起こることという意味です。特発性膀胱炎は猫に多く、治療は抗生剤、食事療法などが適応になる場合があります。

会陰尿道ろう形成術、猫ちゃんの尿結石

前立腺肥大の症状は排尿障害(血尿、頻尿、尿失禁)、下腹部痛、前立腺が背側に圧迫すると排便障害(便秘、便が細くなる、しぶり便)を起こします。治療は去勢手術ですが、去勢手術しても前立腺肥大が解消されるまで時間がかかるためホルモンを抑える飲み薬の治療と並行して行われます。しかし、去勢手術自体ができない場合があります。この病気は元々高齢期に起こることから、併発疾患によって麻酔をかけることができないケースが多々あり、その場合はホルモンを抑える治療を行います。しかし、ホルモンを抑える治療は数ヶ月〜数年後に再発するため、前立腺の状態を確認する必要があります。

雄猫は尿道が細く、膀胱にできた砂(尿石)が詰まることがあります。特に雄猫のペニスの先は細いため、ペニスの先端で詰まることが多いです。砂が詰まってしまうと排尿できなくなり、尿毒症・膀胱破裂で亡くなる危険性があります。通常は尿結石用の食事でコントロールできますが、食事療法ができない子、尿閉の再発を繰り返す子、肥満や炎症で尿道が狭くなってしまった子には手術が必要です。その手術が会陰尿道ろう形成術です。この手術は一言で言うと、ペニスを切除して女性器のように形成することです。ペニスを切除することで先端の狭窄がなくなり格段に尿の出がよくなり、詰まる危険性は軽減します。当院では会陰部尿道ろう形成術の術式の中でも難易度の高い、筒状包皮粘膜縫合法(図2)を採用しています。従来の方法だと、ペニスを切断し、切断した部分の尿道粘膜と皮膚を縫い付けています(図1)。しかし、筒状包皮粘膜縫合法は包皮を温存し、尿道粘膜と包皮をつなぎ合わせる方法です。これにより感染のリスク、縫合不全のリスク、再手術のリスク、長期尿道カテーテルの設置時間が軽減します。この術式の唯一の欠点は尿がでるところが包皮で隠れて観察できないことです。しかし、実際に尿がでているかを観察できれば問題ありません。もし会陰尿道ろう形成術に関してご相談があれば、気軽にご相談ください。
通常の会陰尿道ろう形成術後の写真

(図1)通常の会陰尿道ろう形成術後の写真
ペニスおよび包皮を切除して、尿道粘膜と周りの皮膚を縫合する。

※『イラストを読む!犬と猫の臨床外科』より抜粋、顧問獣医師渡邉先生の許可済、転載禁止

筒状包皮粘膜縫合法の術後写真

(図2)筒状包皮粘膜縫合法の術後写真
※『イラストを読む!犬と猫の臨床外科』より抜粋、顧問獣医師渡邉先生の許可済、転載禁止

前立腺疾患(前立腺肥大、前立腺炎、前立腺膿瘍、前立腺癌など)

前立腺疾患は主に中年齢から高齢に多く、未去勢雄に多く見られます。前立腺疾患はホルモンが原因であり、早期に去勢を行うことで予防できます。

前立腺肥大

前立腺肥大の症状は排尿障害(血尿、頻尿、尿失禁)、下腹部痛、前立腺が背側に圧迫すると排便障害(便秘、便が細くなる、しぶり便)を起こします。治療は去勢手術ですが、去勢手術しても前立腺肥大が解消されるまで時間がかかるためホルモンを抑える飲み薬の治療と並行して行われます。しかし、去勢手術自体ができない場合があります。この病気は元々高齢期に起こることから、併発疾患によって麻酔をかけることができないケースが多々あり、その場合はホルモンを抑える治療を行います。しかし、ホルモンを抑える治療は数ヶ月〜数年後に再発するため、前立腺の状態を確認する必要があります。

前立腺炎

前立腺炎はその名の通り、前立腺に炎症がある状態です。この病気にかかると、排尿痛、尿の色が濁ったり、血が混じったりします。ひどい場合には、発熱、嘔吐、食欲減退などの症状も見られます。治療は抗生物質がメインになりますが、重症の場合は入院下で静脈点滴による抗生物質投与が推奨されます。抗生剤の効果が乏しい場合は薬剤感受性検査を実施して、原因菌の特定と効果のある抗生剤の選定を行うことが重要です。

前立腺膿瘍

前立腺膿瘍は前立腺に膿瘍ができること、すなわち前立腺の部分が細菌感染して化膿する病気です。症状は、尿に膿が出て、尿の色が濁ることです。尿の回数が多くなり、尿が出にくくなることもあります。また症例によっては発熱、食欲不振、元気消失、下腹部痛がおこる場合があります。治療は抗生剤の投与がメインになります。

前立腺膿瘍のエコー画像です。前立腺中央に黒い袋があり、これが膿瘍です。また、この症例の前立腺は肥大していました。

前立腺膿瘍のエコー画像です。前立腺中央に黒い袋があり、これが膿瘍です。また、この症例の前立腺は肥大していました。

前立腺癌

症状は前立腺疾患と同様ですが、前立腺疾患と異なり、去勢済み雄でも認められるのが特徴です。その名の通り前立腺が癌化する病気です。診断には前立腺の細胞をとる検査が必要です(セルパック法)。また、エコー検査で前立腺の石灰化が重要な画像診断となります。

前立腺癌のエコー画像です

前立腺癌のエコー画像です。

会陰ヘルニア

会陰ヘルニアとは、お尻の横を形成する筋肉が薄くなり、ヘルニア孔という穴ができてしまい、骨盤腔内の臓器や脂肪が飛び出る病気です。Mダックスやコーギーなどの犬種に多く発生し、中年齢〜高齢の未去勢オスに多く発生し、精巣からでるホルモンが原因と言われています。この病気の一番の予防は幼少期に去勢手術を行うことです。ホルモンの作用により筋肉が薄くなり、お尻の横から臓器がでてきます。比較的軽度であれば、ヘルニア孔から脂肪が飛び出るだけですが、重症化すると直腸や膀胱など臓器が飛び出る場合もあります。これにより、排尿や排便障害がおこり、最悪の場合命に関わります。膀胱がヘルニア孔を飛び出した場合は尿路閉塞により尿が出なくなります。これにより尿毒症を引き起こします。閉塞が長期の場合、手術で尿路閉塞を解除したとしても、慢性腎臓病に移行している可能性があり、会陰ヘルニアの治療後も半永久的な治療が必要です。飼い主様で気をつけるポイントは肛門の横は腫れていないか?腫れていたとしたら、ちゃんと排便しているか?、排尿しているか?を見ておく必要があります。肛門の横が腫れていた場合はすぐに動物病院の受診をお勧めします。

会陰ヘルニアの第一選択の治療は外科手術です。当院では未去勢雄であれば、精巣にある総鞘膜を使った整復術(図1)、未去勢雄であれば、浅殿筋を使った整復術(図2)を行い、ヘルニア孔を閉じる手術を行います。状況に応じて術式は変更します。もし会陰ヘルニアの診断および治療に関してご相談があれば、気軽に相談してください。

総鞘膜を使った整復術

(図1)上記のイラストは総鞘膜を使った整復術
※『イラストを読む!犬と猫の臨床外科』より抜粋、顧問獣医師渡邉先生の許可済、転載禁止

筒状包皮粘膜縫合法の術後写真

(図2)上記のイラストは浅殿筋を使った整復術
浅殿筋をヘルニア孔まで牽引していき、浅殿筋をヘルニア孔でフラップします。

※『イラストを読む!犬と猫の臨床外科』より抜粋、顧問獣医師渡邉先生の許可済、転載禁止