軟口蓋過長症や外鼻孔狭窄はフレンチブルドック、パグ、ボストンテリア、ブルドックなどの短頭種に多い病気です。
軟口蓋過長症は、喉頭蓋の先端を越えて過長した軟口蓋の遊離縁が、喉頭の機能を妨げて喉頭蓋の上部を覆ったり、吸気時に声門の中に吸い込まれ、呼吸困難となり、さらに軟口蓋や周囲の喉頭組織に炎症と浮腫を起こす疾患です。軟口蓋過長症の約80%は短頭種の犬でみられ、臨床徴候として、嘔吐、吸気時のゴロゴロやゼーゼー、いびき、呼吸促迫などがあります。また、鼻孔狭窄も同時にみられることが多く、軟口蓋過長を悪化させる要因の一つになっています。これらの病気を持つ短頭種(短頭種気道症候群)は、特に夏場に呼吸状態などの症状が悪化しやすいです。これらの疾患は、適切な外科的処置を行えば、呼吸状態の改善が良好になります。当院では、短頭種の過長した軟口蓋の切除法と鼻孔狭窄の修復を積極的に行っています。その手術方法を当院顧問獣医師の渡邉先生にご解説していただきます。
軟口蓋過長症は、喉頭蓋の先端を越えて過長した軟口蓋の遊離縁が、喉頭の機能を妨げて喉頭蓋の上部を覆ったり、吸気時に声門の中に吸い込まれ、呼吸困難となり、さらに軟口蓋や周囲の喉頭組織に炎症と浮腫を起こす疾患です。
(図1)正常な軟口蓋遊離縁の位置
(図2)軟口蓋過長症の軟口蓋遊離縁の位置
正常な軟口蓋の遊離縁は、喉頭蓋よりわずかに吻側に位置していますが(△)、
軟口蓋過長症での軟口蓋の遊離縁は、喉頭蓋を越えて過長しています(▲) 。
※『イラストを読む!犬と猫の臨床外科』より抜粋、顧問獣医師渡邉先生の許可済、転載禁止
軟口蓋過長症の整復手術では、軟口蓋の遊離縁が喉頭蓋の先端よりわずかに吻側となるように軟口蓋を短く切除します。手術は、気管内挿管をして全身麻酔下で伏臥位あるいは仰臥位に保定して行います。咽頭・喉頭の解剖学的構造を理解していれば、気管内挿管はさほど困難なものではありません。開口器と喉頭鏡を用いた確実な気管内挿管と咽頭・喉頭の露出を行うことが必要です。
術後の軟口蓋浮腫の軽減のため、必要に応じて手術前後にステロイドを投与しますが、抗生物質の投与は通常、必要ありません。術後の食事は1日控えます。
まずは、口腔内を十分に観察します。特に過長した軟口蓋の遊離縁と喉頭蓋の位置関係、さらに口蓋扁桃の位置を確認しておきます。軟口蓋の切除位置は、口蓋扁桃より奥(遠心側)の部分です(△)。
軟口蓋周囲を綿球や綿棒で消毒し、アリス鉗子を過長した軟口蓋の游離縁にかけ、吻側へ牽引します。
左右口蓋扁桃の尾部の高さの軟口蓋に2-0〜3-0のモノフィラメント非吸収糸(丸糸)をかけ、これを支持糸とします。
左右の支持糸を吻外側の牽引し(黄色矢印)、ゆるく緊張させながら、メッツェンバウム剪刀を用いて支持糸より吻側(軟口蓋を反転牽引しているため)、実際は尾側)すぐの軟口蓋部分を切除します。必要に応じて圧迫止血を行います。
軟口蓋断端の鼻粘膜側と口腔粘膜側の両方に4-0〜5-0のモノフィラメント吸収糸(丸糸)をかけ、約2mm感覚で筋層をはさまずに単純連続縫合します。
眼科剪刀にて縫合糸と支持糸を切り、軟口蓋を正常な位置に戻して長さを評価します。整復後は、声門裂が確認できます。
※『イラストを読む!犬と猫の臨床外科』より抜粋、顧問獣医師渡邉先生の許可済、転載禁止
鼻孔狭窄は、軟口蓋過帳の短頭種の犬にみられることが多く、また、鼻孔狭窄における吸気によって軟口蓋の過長が悪化することもあります。軟口蓋過長症の整復手術で鼻孔狭窄が認められた場合、これらの整復を同時に行うことにより、さらに大きな効果が期待できます。
鼻腔狭窄の整復手術には、垂直楔状切除術、水平楔状切除術、外側楔状切除術などがありますが、当院では最も簡単な垂直楔状切除術を行っています。
尾翼にV字型切開を行うため、攝子で鼻孔の縁を把持し、細いメスでV字型の内側部分を切開します。
攝子で切除部分の尾翼を内側に引っ張りながら、細いメスでV字型の外側部分を切除します。
切開した尾翼組織を攝子で手前に引っ張りながら、メスかメッツェンバウム剪刀で除去します。切除後の鼻孔周辺の出血は縫合すると止血されるため、圧迫止血程度にとどめます。
尾翼のV字型に断面をあわせ、切開縁の底辺の部分をモノフィラメント非吸収糸(丸針)で1糸、縫合します。
尾翼前面をモノフィラメント非吸収糸(丸針)で4-5糸単純結合縫合します。
鼻孔縁を攝子で手前に引っ張りながら鼻孔の奥で鼻軟骨に掛かるようにモノフィラメント非吸収糸(丸針)を1糸、縫合します。これによって鼻孔は大きく開孔します。
反対側の鼻腔狭窄に対しても同様に整復手術を行い、終了後、鼻孔の大きさを確認します。
※『イラストを読む!犬と猫の臨床外科』より抜粋、顧問獣医師渡邉先生の許可済、転載禁止
当院ではこのように手術を行います。興味のある方や聞きたいことがあれば、当院にお問い合わせください。
羽島動物病院 岩佐直樹